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ヤガミケ!? 第六話「宿命の八神家」

 ひさびさに短編SSを更新。
 内容は愚にもつかないアホな話です。
 あとタイトルに「第六話」と書かれていますが、続編モノではないので前後の繋がりはありません。完全に独立した話になっています。なので安心(?)してください。
 お暇なときにでも読んでいただければ幸いです。
 


 新暦65年。海鳴市を舞台に繰り広げられた『闇の書事件』が終結。
 その後に管理局から保護観察を受けた『八神はやて』と『ヴォルケンリッター』たち。
 多くの罪を犯してしまった彼女たちは、その償いのために『あること』を決意する。
 それは世のため人のため、社会に対して『無償奉公』をすることであった。
 そして今ここに――八神家の面々による粉骨砕身のボランティア活動がはじまる。


 第六話(?)『宿命の八神家』


 現実は非情だ。
 ただ安寧と暮らしている人たちにも過酷な試練を与える。
 卑賤を問わず、男と女を問わず、老いも若きも問うことなく。
 ただ無慈悲に、ひたすら無慈悲に。
 死のごとく平等に人々の生活をおびやかす。
 だからせめて夢の中でだけは……辛辣な運命とは無縁でいたい。
 そう思うのは決してワガママなことではないだろう。むしろ人間に必要な権利だろう。
 しかし――
 いま八神はやてが見ている夢は、そんな願望とは対極に位置する光景だった。

「そんな……わたしたちの海鳴市が……」

 街は松明のごとく煙をあげて燃えていた。家も、学校も、街路樹も、雲を衝くようなビル群も、まわりを取り囲む山さえも、上空から俯瞰できるものすべてが赤く燃えている。
 地獄もかくやと思わせる惨憺たる光景。まるで街全体が血を流しているように見えた。

「い、いったい、なにがあったんや?」
「襲撃されたのです。世にも恐ろしい、語るも恐ろしい、大空を飛翔する怪物に……」

 戦慄にわななく呟きに答えが返ってきて、はやては弾かれたように背後を振り向いた。

「リインフォース! どうしてあんたがここに?」
「それはここが夢の中だからです」

 驚きのあまり声が裏返った少女に対し、リインフォースは落ちついた様子で解答した。
 氷結した滝のごとく背中を流れる銀色の長髪、浮ついた媚びのある笑顔よりもキリリと張りつめた表情によく似合う唇、そして朝焼けよりも夕映えよりも鮮やかな深紅の双眸。
 黒いボディスーツの下に秘め隠された、なやましい曲線を描く絶妙のスタイルは、名のある職人がこしらえた石膏像さながら、この世のものとは思えないほど端整で美しい。
 懐かしそうに口元を弛めた彼女の表情は、もはや同姓にとっても危険な蠱惑であった。

「お久しぶりです、主はやて。ちなみに私は、リインフォースⅡではなく、初代リインフォースのほうです。無印です。――そういえば主はやては『魔法少女リリカルなのは』の原作を知っていますか?」

 なんの前触れもなくリインフォースが語りはじめた。

「もともとは『とらいあんぐるハート3りりかるおもちゃ箱』に収録されていたミニシナリオだったんです。ストーリーは『高町なのはとクロノ・ハラオウンの恋愛成就』の顛末を描いたもので、紆余曲折を経たのちに相思相愛となった二人は本編の後日談で――」
「言わせねぇよ!」

 いつになく滑らかに動くリインフォースの唇を、はやてはとっさに伸ばした右手で慌ててふさいだ。そうしなければ今ごろ規制されるようなことを口走っていたはずである。
 やれやれ。感動の再会もあったものではない。

「まったく不適切な発言には注意してや。で、大空を飛ぶ怪物っていうのは何者なの?」

 溜息まじりに言いながらリインフォースの口から手を離す。だが咎めるような視線は変わらずに固定されている。手を離した瞬間に怒涛のごとく喋りだすかもしれないからだ。
 リインフォースは話の腰を折られて不服そうだったが、はやての有無を言わさぬ圧力に促される形で口を開いた。

「時空管理局のエースオブエースであり、あなたの親友でもある『高町なのは』です」

 思いもしなかった名前が出てきて、はやては数瞬のあいだ呼吸を忘れた。

「なのはちゃんが? そんなバカな。こんなひどい真似を彼女がするわけがない」

 頭から可能性を否定して失笑する彼女に、リインフォースは小さく首を振ってみせる。

「残念ですが、いま言ったことは事実です。――あれを見てください」

 凄艶な美貌を暗くしたリインフォースが、はやての後ろに広がる廃墟の一角を指さす。
 はやては訝りながらも促されたとおりに背後を振り向く。その目が驚愕に見開かれた。
 はやてとリインフォースが浮かぶ空よりも、やや低い位置に見える高層ビルの屋上に、ウサギの耳ほどの長さのツインテールを風になびかせる、高町なのはの姿があったのだ。
 が、はやてが驚きもあらわに絶句したのは、なのはの姿を確認したからだけではない。

「……笑ってる。まるでアリを踏みつぶして遊ぶ子供みたいに楽しそうな表情で……」

 嘘だと思った。すぐに否定してやりたかった。けれど舌は口腔に貼りついて動かない。
 屋上から都心を睥睨する親友の白いバリアジャケットは鮮紅色に染まっている。それは周囲の建物を燃やす炎の反照だったが、はやての目には凄惨な返り血のように映った。

「いまの彼女にかつての優しさはありません。世界を滅ぼす災厄――白い悪魔なのです」

 リインフォースが重々しく呟いた。はやての隣に並んだ彼女の顔は憂愁を帯びている。
 はやてはビルの屋上に視線を据えたまま、だらりと下げた両手を握りしめて拳にした。

「リインフォース……あんたはいったい、なにが言いたいんや?」
「高町なのはと戦ってください。彼女の暴挙から世界を救うために」

 リインフォースの答えは単純明快だった。しかし心は理解することを拒んでしまう。

「なのはちゃんは大切な友達や。命を救ってもらった恩人でもある。それでも戦えと?」
「酷なことを言うようですが……」

 たしかに残酷な話である。親友と思っている少女の撃墜を請け負えるわけがなかった。
 だが捨て置くわけにもいかない。このままでは無辜の流血がいたずらに増えるだけだ。
 ならば自分が戦うしかない。
 はっきり言って辛い役目だ。できれば逃げてしまいたい。
 けれど逃げるわけにはいかなかった。なのはが世界を破滅させる元凶ならなおさらだ。
 なのはとは、わたしが戦う。
 それが堕落した親友にかけることができる唯一の情けだろうから。
 はやては悲痛な葛藤に苛まれながらも、なのはと対峙することをついに決心した。

「……わかった。これ以上、なのはちゃんに罪を重ねさせない。わたしは――戦うよ」

 はやては毅然とした光をたたえた瞳で、隣に立つリインフォースの顔を見つめた。

「でも、ひとつだけ問題がある。現実世界のなのはちゃんはヴィータと一緒に、いま任務で未開の次元世界にいるんや。個人の魔力で使える次元転送じゃ往復できない場所に――」
「その問題はすでに解決済みです。こんなこともあろうかとアースラの『起動キー』を拝借しておきました。これでアースラを自由に飛ばすことができます」

 リインフォースが得意げに右手を差しだしてくる。その掌の上にある重厚な物体はまぎれもなく、アースラを起動するために必要な鍵であった。
 はやては目を丸くする。この鍵はアースラの艦長であるリンディが厳重に管理しているものだ。国宝級の逸品とまではいかないものの、そんな簡単に持ちだせる代物ではない。

「ずいぶんと抜かりないんやな。いったいどんな方法を使って借りてきた?」
「愚問ですね。ここはあなたの夢ですよ。どんな破天荒なことだってまかりとおります」

 そうなのか? いや、そんなはずはない。――が、結果がよければすべて良しである。
 はやては深く考えるのをやめた。それから良心の呵責もなく『起動キー』を受けとる。
 諸々の経緯は疑問だが、ともかく足は手に入れた。これでいつでも次元跳躍ができる。
 ――なんてことを気楽に考えていたときだった。

「なにもかも突然すぎて恐縮ですが、どうやら私の使命は終わりのようです」

 目的を果たしたらしいリインフォースが、常のごとく淡々と別れの挨拶を切りだした。
 見れば彼女の実体が消えはじめている。はやてが眠りから覚醒しようとしているのだ。

「あなたは人類の明るい未来です。あなたこそは夜明けの明星です。だから主はやて……負けないでください。取るに足らないかもしれませんが全力で武運長久を祈っています」

 なんだか変な言いまわしで滑稽だったが、勇気づけてくれているというのはわかった。ならここは余計なことは言わず、素直に感謝するのが正しいだろう。はやては首肯した。

「ありがとう。それじゃあ行ってくる」

 リインフォースと感動的な別れをした刹那、はやては眠りの底から浮上して現実に戻った。
 それから彼女は無断でアースラに乗りこみ、無断でアースラを起動させ、無断でアースラの次元転送を行使し、無断でなのはとヴィータがいる次元世界へ転移する。そして――

「高町なのはぁ――――ッ! ここが貴様の冥土だあああッ!」

 なにやらアンノウンと交戦中だった少女に、アースラの船首を剣先のごとく突っこませる。
 なのはとアンノウンが同時に轢かれた。一方が撃ち落された鳥のように、一方が壊れたおもちゃのように、地面へ落下していく。やがて荒廃した大地に音をたてて激突する。
 その撃墜の成果を見届けたあとで、はやては悠然とアースラから降りた。

「任務、完了。リインフォース、わたしはやったよ。世界の平和を守ったよ」
「いきなりやってきて、なにふざけたこと言ってやがる! 早く医療班を呼べ!」

 甘美な達成感に酔いしれる夜天の主に、すかさずヴィータが鋭い叱責を飛ばした。
 はやての頭をグラーフアイゼンで殴りつけると、ヴィータは横たわる被害者の側へ慌てて走り寄る。飛行魔法を使ったほうが速いのにも気づかないほど混乱した様子だった。

「なのは! おい、しっかりしろ。起きろよ。目を開けろ!」

 なのはのぼろぼろになった体を抱き起こしながら必死に呼びかけるヴィータ。
 すると少女の瞼が微かに開かれた。叫び続けるヴィータの頬に右手をそっと添える。

「……ヴィ、ヴィータちゃん。もし……もし、わたしが死んだら、わたしの代わりにシグナムさんのポニーテールをツインテールにして……」
「冗談を言っている場合か! すぐに医療班が来るから、それまでもう少しがんばれ!」

 おそらく意識が混濁しているのだろう。生涯最後になるかもしれない言葉が「シグナムのポニーテールをツインテールにしてくれ」だなんて惨すぎる。もっと家族なり友達なりに言い残しておきたいことがあるだろうに。ますます死なせるわけにはいかなくなった。

「ちくしょう! このままじゃマジでこいつが死んじまう。医療班はまだ来ないのかよ」
「なんや。なのはちゃん、まだ死んでなかったんか。なかなか臨終どきの悪い魔女やね」

 したたかに殴られた後頭部を撫でながら、はやてがさも憎々しげな口調で吐き捨てる。
 非殺傷設定とは無縁の物理攻撃を受けたのだ。魔法攻撃と違って痛いのは当然だった。

「あ、頭に大きな『たんこぶ』ができてる。やれやれ。ヴィータは本当にひどい子やな」
「ひどいのはどっちだよ! ――ていうか医療班はちゃんと呼んでくれたんだろうな?」

 なのはを腕に抱いたまま背後を振り向いたヴィータが辛辣な目で睨んでくる。
 はやてはキョトンとして首をかしげた。

「わたしは白い悪魔を倒すために遣わされた勇者や。そのわたしがどうして敵を助けるような真似を? それよりもさっさとトドメを刺して感動のエンディングを迎えよう――」
「どうでもいいから、早く医療班を呼べよ。もう一緒に、お風呂に入ってやんねえぞ!」

 はやては言葉に詰まった。ヴィータやリインフォースⅡと一緒に入浴することが最近の生き甲斐なのだ。それをこんな形で奪われてはたまらない。断固として阻止しなければ。

「わ、わかった。わかったから、くれぐれも早まったらいかんよ」
「じゃあ早くしろよ。それが終わったら今度は、なのはをアースラに運ぶからな」
「はいはい。まったくなんでこんなことをしないといけないんやろ……ぶつぶつ」

 投げやりな態度で返事をした瞬間、ヴィータの目つきがさらに険しくなる。

「『はい』は一度!」
「はいぃぃぃ~」

 ヴィータの鉄槌を思わせる激しい怒号に、はやての背筋が針金のようにピンと伸びる。
 これ以上の逆鱗は本当に死活問題だった。はやては急いで本局の管制に連絡を入れた。

 ――これが闇に葬られた「高町なのは撃墜事件」の真相である(もちろん嘘だが)。
 そして八神はやては千枚の始末書を書かされた。ちなみに提出期限は一週間後だった。
 だが彼女のウリは常軌を逸した鉄面皮である。事件の翌日には平然とこう言っていた。

「なのはちゃん、あれから無事に一命を取りとめたんやってな? いや~よかったよかった。安心したらお腹が減ってきたな。……そうだ。これからみんなでお祝いせえへん?」
「……なのはじゃなくて、はやてが入院すればよかったのに」

 そう思わずにはいられないヴィータなのでした。


 第六話(?)『あの元凶は八神家』
 終わり。
 

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HN:
イヒダリ彰人
性別:
男性
趣味:
立ち読み、小説を書くこと
自己紹介:

イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。

《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん

《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。

《ブログについて》
魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
イヒダリ彰人の妄想をただひたすらに書きつらねていきます。
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