イヒダリの魔導書
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雪の降った日は
北海道は本格的に寒くなり、先週はついに雪なんか降りやがりました。
マジで寒い。暖房がないと凍えるぜ。
まあそんなわけで、雪を題材にしたSSなんかを書いてみようと思い立ったので、
三連休を浪費して書き殴ってみました。
この三連休のうちに更新しようと考えていたので、推敲はまったくしていません。
文字どおりできたてホヤホヤです。
テーマも判らない意味不明なSSですが、みなさまの暇つぶしになればいい……かな?
――冬。
偉大なるおてんとうさまも寒さに震え、まるで逃げ帰るように落陽する季節。
昨夜、海鳴市は例年を大きく上回る積雪にみまわれた。
その翌日――。
「ねえ、雪合戦でもしない?」
出し抜けにそうアリサが提案したのは、小学校からの帰り道であった。
「それはまた、いきなりだね」
アリサの左隣を歩くすずかが、友人のとっぴな発言に困惑したように相槌を打つ。
アリサは、両手をすっぽりと包みこむ毛糸の手袋の上から白い息を吐きかける。次いで、戸惑いの表情を浮かべているすずかに向き直った。
「別にいきなりじゃないわよ。学校にいたときからずっと考えてたんだから」
アリサはあっけらかんと言い放った。たしかに今日、学校にいたあいだ中、アリサは放課後をどう有意義に過ごすかばかりを考えていたのだ。
アリサにとって小学校の授業とは、できて当たり前、知ってて当然くらいのレベルでしかない。むろん、学校で学ぶことが無価値であると思っているわけではなかった。
しかし、いくら美味しい食べ物でも、毎日食べれば飽きてくるように、アリサは学校の勉強が退屈で仕方なかったのである。
もし法律に義務教育なるものが存在しなければ、アリサは学校になど行かなかっただろう。
「だから授業中、ああでもない、こうでもないって、ってぶつぶつ呟いてたんや」
平然と言ってのけたアリサの返答に、すずかを挟んでその隣にいるはやてが唸った。
「授業内容なんてほとんど聞いてないのに、それでもテストではいつも百点なんやから。
……なんか、世の中いろいろ不公平やね」
はやてが世の儚さを憂えるように嘆息した。
そのとき、アリサの切れ長の瞳に鋭い光が灯る。眼光をいや増したアリサは、あたかも気配を消して忍び寄る獣のように、はやての眼前まで移動する。そして、きょとんとした表情を浮かべているはやての頬に手を伸ばし、おもいっきりつねって引っ張った。
「どの口が不公平だなんて言ってるのよ。この、このッ!」
まるでそれが憎い相手であるかのように、はやての頬をこねくり回すアリサ。
はやては「いたいいたい、やめてやめて」と聞こえる、くぐもった悲鳴をあげていた。
突如として暴力に訴えだしたアリサを見かねて、はやての隣にいるフェイトが慌てて二人のあいだに割って入る。
「まぁまぁ……それよりも、どうして雪合戦なの? こんなにたくさん雪があるんだから、べつに他の遊びでもいいと思うんだけど」
目に角を立てるアリサをなだめるように、フェイトが疑問を投げかけた。
はやての頬から引き離されたアリサは、割り切りがいいのか、それとも単に移り気な性格なのか、さきほどの憤懣など忘れたかのように不敵に笑う。
「理由は簡単。いま私の求めているものが〝戦い〟だからよ!」
吶喊する騎兵のように猛るアリサに、フェイトは「はぁ」と訳判らんというふうに息をつく。
だがアリサは、気のないフェイトの反応に頓着しなかった。
「ところで、あんたたちは寒くないの? 私なんかコート着てても凍えそうだっていうのに」
むろん凍えるわけがない。アリサが大袈裟に誇張しただけである。しかし、なのは、フェイト、はやての三人が寒さを微塵も感じていないのは確かだった。
アリサの目が訝しげに細められる。
その視線と疑問を受けて、フェイトの隣にいたなのはが口を開く。
「それは魔法で――」
「ああ、みなまで言わなくても判ったわ。やっぱり私の思ったとおりだった」
アリサは芝居じみた嘆きと悲しみの台詞で、なのはの言葉を遮った。
アリサは自分の演技を迫真だと思っていた。が、端から見ればただの大根役者の空想である。
現に、なのはが何も言わないのは、言葉を遮られたことに怒っているのではなく、アリサの演技力のなさを哀れんでいたからに他ならない。
唖然としているなのは、フェイト、はやてに向かって、アリサは人差し指をビシッと突き出した。まるでどこぞの名探偵が、犯人を指差すような仕草である。
「勝負よ。管理局の魔導師ども! 寒さに震える一般人を代表して、私とすずかが、あんたたちを成敗してくれるっ!」
アリサは是非を問わず、すずかを自分の支持者に仕立てあげていた。了解した覚えのない事柄に、すずかが当惑顔でいさめようとする。
「別にわたしは寒くなんてない――」
「すずかも同意見のようだし、あんたたちも拒否するなんて認めないんだから」
断固、有無を言わせない。アリサは、すずかの主張を言下にさえぎった。
多少強引だったかもしれない。いくらか傲慢に映ったかもしれない。が、いまさら後悔してももう遅い。数年にあるかないかという大雪を目の前にして、どうしてはしゃがずにいられよう。そしてそんな子供っぽい心情を告白するなど、実年齢よりもずっとませたアリサには土台無理な相談だった。さっきまでの尊大な振る舞いは、アリサなりの照れ隠しだったのである。
そんなアリサの気持ちを知ってか知らずか、なのはが考えこむように小首をかしげた。
「まあ、わたしたちはいいけど。……それで、肝心の雪合戦はどこでするの?」
その答えを待ってましたと言わんばかりに、アリサは意気揚々と背後を指差してみせた。
「海鳴臨海公園。決戦の地はそこで決まりよ」
雪の積もった海鳴臨海公園の中央広場は、砕いた雲母を散りばめたように白くきらめいていた。これで人の足跡がちらほら残っていなければ、もっと目を惹かれる光景だっただろう。
もっとも、悲壮な決意を懐いて戦いに臨む剣闘士のごとく腕組みをして佇むアリサには、あまり関係のない審美ではあったが。
「……時は来た」
「なに、それ?」
何となく雰囲気で呟いたアリサの一言に、すずかからの突っこみが入る。
アリサは憮然とした様子で眉をひそめた。
「言ってみたかっただけよ」
ふて腐れたように小声で吐き捨てると、アリサは取り澄ました表情で口火を切った。
「それじゃさっそくルールを説明するわね。……まあルールっていっても、雪玉に石を入れるなとか顔だけは狙うなとか、あらためて言わなくても判ることばかりだけど」
「つまり、相手に怪我をさせるような危険な攻撃はするなってことやね」
確認するように問いかけたはやてに、アリサはゆっくりした動作で首肯する。
「そういうこと。そのへんは各々がきちんと把握してると思うから、とくに私からは言うことはないわね。それで肝心のチーム編成だけど」
アリサはそこでいったん言葉を区切り、一同の顔を順繰りに見回していく。
「チーム分けは、私とすずかの一般人コンビ。なのは、フェイト、はやての魔導師トリオで決まりだから」
あらかじめ考えていたことを告げるように、アリサは淡々と迷いなく言葉を繋げた。
「いまさら気づいたけど」
そのとき、なのはが悲しそうに呟いた。そんな彼女と連動するように、フェイトもいたたまれない憐憫に泣き出しそうな表情を浮かべる。
「アリサのネーミングセンスがあまりにも絶望的すぎる……」
「そこッ! だまらっしゃい!」
悲嘆に目がおちくぼんだなのはとフェイトに、柳眉を逆立てたアリサの叫びが飛んだ。
アリサは興奮醒めやらず、機嫌の悪い猫のように唸り声をあげている。そんなアリサの堪忍袋をこれ以上刺激しないようにと、はやてがおそるおそる手を挙げてお伺いをたてる。
「アリサちゃん、ひとつ質問があるんやけど」
「ん? なに?」
依然、アリサの声にはドスが利いていたが、それでも他人の意見を聞く耳はあるようだった。はやては言葉を選ぶように慎重に問いを重ねる。
「人数の関係上仕方がないとはいえ、二対三はアリサちゃんたちには不利な条件なんじゃ?」
しごく一般的な懸念を口にしたはやてに対し、アリサは一転、妙に自信ありげに微笑んだ。
はやてのことである。それは無意識に口を衝いて出た印象だったのだろう。たとえ遊びであろうとも正々堂々。そんな思いから来た発言だったに違いない。
だが、アリサとすずかのチームを不利なんて評する時点で、はやてが自分たちのチームの方を有利だと思っているは明白だった。少なくとも頭の片隅では間違いなくそれが漂っている。
侮られたと憤る気持ちは微塵もない。負けたときの言い訳にするつもりもない。
アリサはただ傲然と鼻を鳴らし、
「ふふん、情けは無用よ。それに私は負けるのが嫌いなの。心配してくれるのはありがたいけど、私は容赦するつもりはないから。だからそっちも本気でかかってくるように」
そう不敵な語調で言い放った。
こうして始まった雪合戦は、なかなかの盛りあがりをみせた。
ひかえめで慎ましい外見や性格とは裏腹の運動神経を誇るすずかと、勉強からスポーツまで何でも器用にこなす万能型のアリサ。この二人のコンビは極上だった。
やることなすことすべてが図に当たる。まるで勝利の女神を味方につけたかのように。
一方、チームワークならアリサとすずかにも負けない魔導師チーム。だが、なのはとはやては運動が苦手なせいか敵の攻撃によく当たっていた。フェイトは運動神経も抜群で雪玉にもそうそう当たらなかったものの、焦って反撃しようとしたためか用意した雪玉の作りこみが甘く、投げたその雪玉がアリアとすずかに届かないという場面が目立った。
やることなすことすべてが裏目に出る。まるで悪戯好きな小悪魔に憑かれたかのように。
しかし、〝かろうじて〟と前述したとおり、勝負は一方的な展開にはならなかった。
なのは、フェイト、はやてたちは次第に雪合戦の攻防に慣れてきたのである。
そうなると、三人は個々が備え持つ才能を徐々に見せはじめてきた。
はやては陣頭指揮。フェイトは素早さで撹乱。そしてなのはが狙い撃つ。
最初の頃の無様な戦い方が嘘のように、形勢はみるみる互角になっていったのである。
――結果。
彼女たち全員の制服は、ぶつけられた雪が溶けてびしょ濡れ。
勝敗を決するよりも早く、冷たさに耐え切れず幕を閉じたのだった。
そうして家に帰りついた彼女たちの無惨な姿は、家族の度肝を抜いたり逆鱗に触れたり、翌日にはそれが宿命であるかのように風邪を引いたりして、まさに弱り目に祟り目であった。
だが、それでもアリサは満足していた。
楽しいことや嬉しいことだけではない。こういうちょっとした災難や不運も、のちのち振り返ってみればかけがえのない思い出になる。
それはあたかもタイムカプセルの中に入れた手紙を読み返すのに似て、未来の自分を励ましたり鼓舞したりするのに役に立つかもしれない。
そう思えばこそ、一見なんの価値もない過去を積みあげていくのも悪くないだろう。
塵も積もれば山となる。陳腐な記憶の破片が、いつかどんな宝物にも勝る宝石になるよう、これからも一歩一歩を大切に進んでいけばいい。
いつか歩む道が分かれたとしても、当時のことを思い返せば自然と笑顔になれるように。
だからそのためには――
「まず、この風邪を治さないとね」
熱でぼんやりとする頭を懸命に働かせながら、アリサはそんなこと呟いたのだった。
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自己紹介:
イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。
《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん
《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。
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