イヒダリの魔導書
招かれざる者の秘録~騎士王の遍歴~ 第一章『~堕ちたる者の遍歴~』(4)
中編クロスオーバーSSの続きを更新です。
ちなみにクロスオーバー元は『魔法少女リリカルなのはStrikerS』と『fate/stay night』と『アルプスの少女ハイジ』です。世界観とキャラクターをお借りしています。
次回の(5)の更新は21日(日曜日)を予定しております。
本当は(4)で第一章は終わる予定だったのですが、書いた話をそのままブログに掲載すると異常な長さになったため、(4)と(5)という形に分割させていただきました。
じれったい真似をして申しわけありません……
そういえば昨日からバンクーバーオリンピックがはじまりましたね。
ニュースで観ましたがモーグル女子の上村愛子選手の四位は本当に惜しかった。
やっぱ世界の壁って厚いんだな。
では『セイバーさんのそっくりさんは鬼畜王(もしくは鬼畜女王?)』をお楽しみください。
轟音、轟音、轟音、轟音、轟音。
横に倒れた黒い竜巻めいた
瓦解した建物から岩絵の具を思わせる濃い煙が立ちのぼる。濛々と巻きあがる粉塵の中から、シグナムとヴィータがほうほうの体で飛びだしてきたのは、その二秒後であった。
「くっ、このままではジリ貧になる。なんとかして奴を出し抜かなければ。ヴィータ!」
「わかってるッ! いちいち指図すんな!」
焦燥に汗しながら呼びかけたシグナムに、ヴィータが甲高い声音で喚くように応じた。
「シュワルベフリーゲン!」
間を置かずヴィータは虚空に四発の実体弾を現出させた。大きさは子供の握り拳ほど。横一列に行儀よく並んだその鈍色の鉄球を、彼女は右手のグラーフアイゼンで薙ぎ払う。
射出された鉄球はヴィータの魔力に加速されて閃光と化し、いまだ立ちこめる煙幕に四つの
途端にヴィータが歯噛みする。自分の攻撃が相手に通じなかったことを察知したのだ。
「ちくしょう! ぜんぶ跳ね返された――」
愚痴を言う暇もあらばこそ、やおら前方の粉塵を突き破り、黒騎士が猛然と躍り出た。
不吉な影のごとくヴィータに肉薄すると、その脳天めがけて必殺の斬撃を振り下ろす。
「レヴァンティン、カートリッジロード」
そのときシグナムが脊髄反射で行動した。窮地の仲間を救うべく黒騎士に襲いかかる。
「紫電一閃!」
風よりも早く動いて距離を詰めたシグナムは、おのれがいちばん頼みとする奥義を繰りだした。圧縮させた炎の渦を刀身に絡ませる仕様は、どこかセイバーの風王結界を彷彿とさせる。当人たちは知る由もないことだが斬撃の威力を底上げするという点も似ていた。
黒騎士は魔剣の切っ先をヴィータに当たる直前でぴたりと止めた。と思うや横から襲い来たシグナムを間髪入れずに迎撃する。その方向転換は力学的にありえない挙動だった。
そしてレヴァンティンとエクスカリバーが
黒騎士が服より
「バケモノめ。これなら――どうだッ!」
鍔迫り合いに負けたシグナムを救うため、今度はヴィータが黒騎士に特攻を仕掛けた。
グラーフアイゼンが下段から薙ぎあげられる。寸毫の容赦も手加減もない一撃だった。
空気抵抗を押しのけて迫る鉄槌の打擲を、黒騎士は半歩ほど後ろに身を引いてかわす。わずかに掠めた二本の前髪が花びらさながら虚空に舞い散る。惨たらしげな猛禽の鈎爪のごとく伸びた黒騎士の左手が、ヴィータの小さな頭を鷲掴みにしたのはそのときだった。
「たしかに私は人間ではない。だが化け物よばわりは心外だ。今すぐ訂正してもらおう」
死人の顔以上に無表情な声で呟いた黒騎士が、ヴィータを手近なビルの出入り口に投げ捨てる。少女は石つぶてのごとく自動ドアのガラスを突き破って奥の暗がりに喰われた。
「心外? 我らベルカの騎士を相手に平然としている奴がよく言う。余裕のつもりか!」
すでに紫電一閃を跳ね返されたショックはない。不測の事態にいちいち惑わされていては出遅れてしまう。それに少しでも隙を見せれば黒騎士に斬られるという確信があった。
「それは大いなる誤解だ。私は余裕を見せつけているわけではない。感心しているのだ」
怒涛の勢いで攻めてくるシグナムを、黒騎士は光より生じた影の口調で淡々と
「格の違いを知りつつも怖じず屈さない。まさに騎士の鑑ではないか。殺すには惜しい」
だが黒騎士の賛辞が意味するところは、その殊勝な言葉とは対極の位置にあった。
この極限下の応酬において、なお
「世迷い言を……」
レヴァンティンを振り下ろすシグナムの顔が悔しさに歪む。動きに小さな隙ができた。
それを見逃す黒騎士ではない。縦に落とされたデバイスを横に弾くと、シグナムの胸に体当たりを喰らわせた。まんまと体勢を崩したシグナムに追い討ちの斬撃が襲いかかる。
右から左に空間を断割するエクスカリバーを、烈火の将はレヴァンティンで必死に受け止めた。しかし受け流そうにも体勢が悪く応じきれない。呆気なく後方に跳ね飛ばされてしまう。空中で無防備な姿をさらすシグナムを、黒騎士は持ち前の残忍さで追いかける。
そのときだった。
「グラーフアイゼン、カートリッジロード!」
その吼え声は戦場と化した街中に鐘のごとく響いた。続いて無人のビルの壁に大きな横穴が穿たれる。そこからヴィータが赤い弾丸のような猛スピードで飛びだしてきた。両手で持つグラーフアイゼンは巨大で武骨な形状に変わっている。ギガントフォルムだった。
「ギガントハンマァァァァッ!」
またたくうちに距離を詰めたヴィータが、雄叫びとともに渾身の力で鉄槌を叩き落す。
獰猛きわまる破壊の一撃を黒騎士は神速で横に避ける。――が、それは叶わなかった。
「油断したな。私たちのデバイスの形状はひとつだけではないぞ」
シグナムの仕業だった。とっさの判断でレヴァンティンをシュランゲフォルムに変形させた彼女は、その連結刃を大蛇のごとく伸長させて黒騎士の右腕に巻きつけたのである。
絡みついた蛇腹の刀身を無理に解こうとすれば、連結した無数の白刃に腕を切り刻まれてしまう。これでは剣を手放して逃げることもできない。まさに問答無用の呪縛だった。
それをシグナムは着地から一秒とかからずにやってのけたのだ。凄まじい技量である。
黒騎士は右腕に巻きついたレヴァンティンに視線を滑らせた。無限の刹那が経過する。
「なるほど。たしかにそのようだ」
まるで他人事のように呟いた黒騎士にギガントハンマーが炸裂する。威力も速度もタイミングも申しぶんない必殺技。この場にいる全員に勝利を確信させるほどの攻撃だった。
そのため黒騎士が左手一本で鉄槌を弾いてみせたときの驚愕は計り知れないものになった。とくに自慢の奥義をありえない方法で跳ね返されたヴィータの混乱はおびただしい。
「う、嘘だろ……」
愕然と呻いたヴィータの吊りぎみの瞳に狂気が浮かぶ。いま眼の前で起きたことは舞の差す手引く手のようなものだ。きっと現実ではなく見た目とは異なっているに違いない。
そんな愚かな妄想で頭をいっぱいにしたいという考えがありありと窺える表情だった。
「しかし私を脅かすには、まだまだ足りなかったな」
息を呑むヴィータとシグナムを横目に、黒騎士はあくまで淡々と次の作業を開始する。
右腕に絡みつくレヴァンティンの刀身をぐっと引き寄せてシグナムを吊りあげたのだ。
足が地面から離れるのを感じつつ烈火の将は瞠目した。野獣の牙のように喰いこむはずだった蛇腹の刀身が、目論見どおり黒騎士の右腕に噛みつかなかったのだ。むろんシグナムの手際に間違いはない。ただ英霊の膨大な魔力で編まれた手甲が固すぎただけである。
為す術なく虚空に浮いたシグナムを、黒騎士は勢いよく頭上で振りまわした。それから鎖分胴の要領でヴィータにぶつける。空中で衝突したベルカの騎士ふたりは、もつれ合うようにして地面に落下した。その拍子にレヴァンティンは黒騎士の右腕から解けている。
くわえて黒騎士は間髪を入れず、シグナムとヴィータが起きあがるのに先んじて、血を好む餓狼のごとく駆けだした。いまや無防備な彼女らの首を刎ねんと魔剣を振りかぶる。
「二人をやらせはせん。――鋼の軛ッ!」
やや離れた場所で戦いを見守っていたザフィーラが、シグナムとヴィータの危機に反応して魔法を行使した。咆哮に続いて地面より飛びだした無数の逆棘が黒騎士を強襲する。
行く手をふさぐ剣山のように噴出した拘束条は、黒騎士を地面に縫いとめる呪縛になるはずだった。黒い甲冑に触れるやいなやことごとく霧散して蒸気のごとく消えるまでは。
その不可解きわまりない光景を余さず目撃したザフィーラの双眸が大きく見開かれる。
「鋼の軛が奴の体に触れる直前で消滅していく。まさかAMFを使っているのか?」
もちろん違う。大魔術を用いても突破は難しい黒騎士の対魔力を貫通できないだけだ。
黒騎士は、鋼の軛を無視したまま最短距離でまっすぐシグナムとヴィータに肉薄する。
シグナムとヴィータは武器を構えて防御の姿勢になった。非情におぼつかない挙動だ。
かろうじて黒騎士の斬撃を受け止めたが、ふたたび派手に弾き飛ばされて虚空を舞う。
もはや戦いは絶望的な趨勢だった。そしてそれを逆転する方策は誰にも見いだせない。
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プロフィール
イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。
《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん
《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。
《ブログについて》
魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
イヒダリ彰人の妄想をただひたすらに書きつらねていきます。
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