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久遠の秘録 第三章『憎悪と怨嗟の果てにあるもの』(1)

 久遠の秘録 第三章『憎悪と怨嗟の果てにあるもの』(1)を更新。
 今日から久遠の秘録の後半戦をスタートします。
 で、今後の更新予定日は――
 第三章の(2)が9月22日(火曜日)、(3)が9月24日(木曜日)。
 幕間が9月26日(土曜日)、最終章が9月27日(日曜日)となります。
 過密スケジュールですが、なんとか今月中に終わらせたかったので、無理しました。
 でも話の内容に手抜きはありません。
 人と妖と魔導師の物語を、どうぞ最後まで見守ってやってください。
 


 高町家で楽しく過ごした翌日の昼頃。空は抜けるような好天気。見事な快晴だった。
 しかし気温は春めいて涼しい。梢をさわさわと揺らす気まぐれな風は肌寒いほどだ。

「……ううぅ。久遠とお別れしたくないよぉ」
「え? 急にどうしたのさ。家にいたときは、そんなこと一度も口にしなかったのに」

 前触れもなく弱音を吐いたヴィヴィオに、夏目は右頬をひきつらせて当惑してしまう。
 なのはとニャンコ先生の言いつけ――久遠の前足の怪我が快癒したら、久遠を自然の中に還してやれ――を励行(れいこう)するため、八束神社の境内にやってきた途端の豹変であった。
 ぐずりだした子供をなだめる方法を夏目は知らない。助けを求めて足元に視線を送る。
 その場にいた大福のごとき白い物体――もといニャンコ先生が大げさに溜息をついた。

「大方、家族の前では見栄を張っておったのだろう。殊勝というよりは自意識過剰だな」
「違うよ! わがままを言って、なのはママを困らせたくなかっただけだもん」

 ちろりと見上げてくるニャンコ先生に、ヴィヴィオが猛然と気色ばんで言い返した。
 ニャンコ先生が呆れた風情で吐息をつく。その姿が人間なら肩をすくめていただろう。

「アホか。中途半端に利口なガキは、これだから面倒くさい。親に甘えるのは子供の特権だろうが。それを自ら放棄してどうする。夏目のごとき根暗な人間になっても知らんぞ」
「やだやだ! そんなのぜ~~~~ったいにイヤだ!」

 ニャンコ先生とヴィヴィオのやりとりは、立ちつくす夏目の心に鋭利な傷を負わせた。

「……なるほど。ふたりとも、おれをそんなふうに思っていたわけか」

 低く呟いた夏目の瞼にチックめいた痙攣が起こる。怒り爆発まで五秒を切ったところ。
 拳を震わせる夏目に逆鱗の気配を感じたらしい。ふいにニャンコ先生が話題を変える。

「どのみち久遠を長時間、八束神社から遠ざけるのは危険だ。強力な呪縛と強制の術で、この場所に繋がれているからな。長いあいだ引き離していると拒絶反応で死ぬかもしれん」

 重大なことを世間話のように告げるニャンコ先生。緊張を伴わない淡白な声音である。
 だが深刻な内容であることに変わりはない。気圧された夏目は一瞬で毒気を抜かれる。
 ふいに夏目の隣で息を詰める気配。久遠を抱きしめるヴィヴィオが涙を滲ませていた。
 ニャンコ先生の忠告に圧倒される夏目だったが、その涙のおかげで正気を取りもどす。

「こらニャンコ先生。まだヴィヴィオは子供なんだ。あまり脅かして怖がらせるなよ」
「誇張したことは認めよう。死ぬのなんのというのも憶測でしかない。しかしこの場所に久遠が呪縛されているのは確かだ。だから私の当て推量も、案外、間違いではないかも」

 責める口調で叱りつけてきた夏目を、ニャンコ先生は顔色を変えず平然とあしらう。

「どのみち人と妖は共生できない。普通の人に視えないことが、なによりの証拠だろう。だから潔く諦めろ。しょせん人は人の中でしか、妖は妖の中でしか生きていけんのだ」

 淡々と結びをつけるニャンコ先生。それが三千世界の(ことわり)と言わんばかりの語調だった。
 夏目は釈然としないものを感じて黙りこむ。それは人も妖もへだてなく好きな夏目だからこその苛立ち。ニャンコ先生の妙に悟ったふうな口ぶりが気に入らなかったのである。
 しかしヴィヴィオは残酷な現実に打ちのめされたようだ。表情がどんどん沈鬱になる。

「せっかく友達になれたのに……ごめんね久遠。今度は、もっとたくさん遊ぼうね」

 半泣きのヴィヴィオが久遠を地面に降ろす。身を切られんばかりの苦しみようである。
 ところが久遠は、ガラス玉めいた黒い瞳をくりくりさせるだけで、まったく動かない。
 結果、しぶしぶ手放した久遠を、ヴィヴィオがふたたび抱きしめたのは必然であろう。

「やっぱりイヤだ! このまま久遠とお別れなんてしたくない!」
「なぬっ! こら小娘、おまえ、さっきの話で納得したんじゃなかったのか」

 断腸の思いをひるがえしたヴィヴィオに、ニャンコ先生が厳しい一喝を浴びせかける。
 だがヴィヴィオは気にしたふうもない。久遠の顔に頬ずりしながら言いわけを述べる。

「今日は久遠とおもいっきり遊ぶ日にする。だから久遠を見送るのは明日に変更します」
戯言(たわごと)をほざくな。今日できないことが明日できるわけなかろう。このアホウめ」

 怒りでタレ目を吊りあげたニャンコ先生が、ヴィヴィオのわがままを冷淡に一蹴する。
 ヴィヴィオは頬を膨らませて不機嫌を表わす。久遠を抱きしめる両腕に力がこもった。

「むぅ、ニャンコ先生のケチ! 鬼、ブサイク、白まんじゅう!」
「ムカッ。この私に向かって、なんという暴言の数々。もう我慢ならん、食ってやる!」

 ヴィヴィオとニャンコ先生が奥歯を軋らせて睨み合う。もはや子供の言い争いである。
 夏目は呆れたが、すぐに気が滅入った。昨日の自分自身を見るようで憂鬱だったのだ。
 なのはの目には、こんなふうに映っていたのだろうか。こんな喜劇じみた光景に……

「――なるほど。話に聞いたとおりだ。妖怪とは切っても切れない縁があるらしいな」

 いきなり夏目の背後から知らない声が割りこんできた。抑揚のない平坦な口調である。
 ……驚いた。急に声をかけられたことよりも、背中にひしひしと感じる冷たい気配に。
 まるで心臓に氷の刃を突きこまれたよう。夏目は緊張に瞳を見開いて背後を振り向く。
 女性だった。
 なのはよりも貫禄がある妙齢の美人。流麗な黒髪は腰まで届く長さ。怜悧な瞳は一対の黒瑪瑙を思わせて澄んでいるが、切れんばかりの眼光の鋭さは白刃にも劣らない。黒いタートルネックのカットソーの首に金色のネックレス、壊れ物めいて細い腰から下はベージュのタイトスカートに覆われている。シンプルにまとめながらも品を漂わせる衣装だ。
 そして左手には、ひと振りの刀。疵のない黒鞘と帯状の柄巻が特徴的な日本刀である。
 その物々しい武器が、ひな人形を精悍にしたような印象を裏切る、そんな人物だった。
 夏目は喉の渇きを覚えて生唾を飲みこむ。するとニャンコ先生が訝しげに誰何(すいか)を放つ。

「ずいぶんと剣呑な気配を放っておるではないか。それに霊力も強い。貴様、何者だ?」

 ニャンコ先生が堂々と喋りはじめたが、夏目はヴィヴィオのときのように注意しない。
 さっきニャンコ先生が口にした『霊力が強い』という台詞を聞きとがめたからである。
 概して妖力や霊力を帯びた特殊な人間は妖怪を知覚することができる。だから目の前の女性もそうだと考えたのだ。夏目や名取と同じく妖怪を視ることができる異端なのかと。
 だが女性は一言も喋ろうとしない。まるでニャンコ先生の声が聞こえなかったように。
 もちろん並外れた自尊心を誇るニャンコ先生にとって、これは度しがたい屈辱だった。

「おい貴様、さっさと答えろ。それとも人間の分際で、私の質問を無視するつもりか?」

 今にも怒髪天を衝きそうなニャンコ先生が、額に険のある皺を刻みながら問い詰める。
 そこでようやく女性は、ニャンコ先生を一瞥した。ぞっとするほど冷ややかな視線で。

「うちの名前は神咲薫。悪霊や怨霊の駆逐を生業とする『祓い師』だ」
「……祓い師? 呪術師の親戚みたいなものか。そんな人が、なんの用事でここに?」

 応じたのはニャンコ先生ではなく夏目だった。知らない単語に反応してしまったのだ。
 すると神咲薫の視線が横に移動した。険はあっても愛嬌はない瞳が夏目を睨み据える。

「子供には関係ない――と本来なら言いたいところだが、ある程度事情に通じているようだし教えてやる。うちの用事はそこにいる『祟り狐』だよ。それを退治するために来た」

 ――祟り狐。
 不吉な呼称だった。ヴィヴィオと楽しそうに戯れていた久遠には似合わない呼び名。
 しかし夏目の眉がひそめられたのは、もっと由々しい疑念が胸中に湧いたからである。

「久遠を退治する……それはつまり久遠を殺すということですか?」
「祟り狐の封印は、うちが施したもの。しかし完璧な封印なんてありえない。いつか必ず綻ぶ。だから封印の影響で妖力が衰えている今のうちに処理する。それがうちの義務だ」

 こわごわと呟いた夏目の質問を、薫は否定も肯定もしなかった。もっとも台詞の内容をかえりみれば、薫の焦点がどこを向いているかは一目瞭然。穏やかな思考ではあるまい。
 夏目は波乱を予感して身構える。ヴィヴィオの悲痛な声が響いたのは次の瞬間だった。

「だめぇぇぇぇッ!」

 だしぬけの絶叫に肝を潰した夏目は、隣で久遠を抱きしめているヴィヴィオを見やる。
 ヴィヴィオは怒っていた。悲しそうに辛そうに苦しそうに顔をゆがめて激昂していた。

「なんでそんなひどいことを言うの? 傷ついたら痛んだよ。死んじゃったらもっと痛いんだよ。なのにどうして処分するとか言うの。久遠は悪いことなんてしてないのに!」
「悪いことならしている。遠い昔に山ほど。無辜(むこ)の人たちの命をたくさん奪っている」

 一気にまくしたてたヴィヴィオの諫言を、薫は温度のない凍えた声音で切り捨てる。

「その子狐は掛け値なしの魔物だ。もし封印が破られれば、また殺戮をはじめるだろう」
「ウソだ! 久遠はそんなこと絶対にしない。だって久遠は優しいもん!」

 ヴィヴィオが歯を剥いて否定する。怒りと、名状しがたい悪寒に顔色を青くしながら。
 そのとき薫の口元が仄かにゆがんだ。それは本音をごまかそうとする酷薄な作り笑い。

「妖は、ある意味では人よりも無垢な存在なんだ」

 翠緑と紅玉の双眸に敵意を滲ませるヴィヴィオに、薫は静かな語調で言い含めていく。

「妖は一途だ。人間のように移り気なものはいない。だから心が黒く澱んでしまえば、もう決して清冽には戻らない。これは死と同じ理屈だ。失われた魂は二度と帰ってこない」

 言い終わるやいなや、薫の瞳に決意の火が灯る。ただしそれは絶対零度の蒼い炎だ。

「さて問答はここまでだ。そろそろ祟り狐をこちらに引き渡してもらおうか」
「イヤだ! あなたに久遠は渡さない。わたしが久遠を守るんだ!」

 久遠を抱きしめる両腕は震えていたが、それでもヴィヴィオは毅然と声を張りあげた。
 心に鉄壁をめぐらせたヴィヴィオの意志は堅牢だ。()げることは容易ではないだろう。
 しかし薫の瞳は一瞬なごんだ。むろん、その真意が奈辺にあるのか誰にもわからない。

「そうか……聞き入れてもらえなくて残念だ」

 決して油断はしていなかった。むしろ意識は研ぎ澄ましていた。にもかかわらず夏目は、続いて起こった現象の数々を順序だてて把握することができなかった。
 通りすぎる一陣の風。梢から飛び立つ鳥の鳴き声。そして重たい物が倒れる不穏な音。
 神速の足運びで背後に回りこんだ薫が、ヴィヴィオの(ぼん)(くぼ)に当て身を閃かせたのだ。
 外科医の手並みで神経叢を麻痺させられたヴィヴィオが、冷たいコンクリートの参道にくずおれる。ヴィヴィオの腕の中にいた久遠は、その衝撃で虚空に投げ出されてしまう。
 それらすべてが夏目の動体視力を逸脱した領域で行われたのだ。まさに刹那のうちに。
 薫は醒めた無表情でヴィヴィオを睥睨している。立ちすくむ夏目には一瞥も送らない。

「手荒な真似はしたくなかったが、説得に応じるとも思えなかったのでな。……許せ」

 古風な言いまわしで謝罪する薫。もっとも黒曜石のごとき瞳には後悔など微塵もない。
 薫は音をたてない静かな足取りで歩きはじめた。よろよろと起きあがる久遠に向けて。
 黙然と近づいてくる薫は死神の似姿そのものらしい。久遠は目に見えて怯えていた。

「ちょっと待って――ちょっと待ってください!」

 そのとき久遠と薫を結ぶ延長線上に人影が割りこむ。夏目だ。彼は気を失ったヴィヴィオを抱きあげるがはやいか、追いつめられた久遠を守るために立ちはだかったのである。
 その行動に瞠目して薫が足を止めた。同じ理由で動転したニャンコ先生も飛びあがる。

「なっ! このアホウ! いったいなにを血迷っておる。早くそこから離れろ!」

 慌てたニャンコ先生が大声を張りあげる。それは無鉄砲な夏目を雄弁に叱責していた。
 むろん夏目とて馬鹿な真似をしている自覚はあった。だがそれでも彼に退く気はない。

「ごめんニャンコ先生。でもこれ以上、黙って見てはいられない」

 夏目は正面を睨みつけた。途端に落ち着きを取り戻した薫の双眸が冷たく細められる。

「おまえも邪魔をするつもりか? さっき目の前で起きた出来事は見ていただろうに」
「……もうやめてください。久遠を殺すことが子供を傷つけてまで断行することですか」
「祟り狐は意思ある災厄だ。事前になんとかしなくては、大勢の人たちが命を落とす」
「妖怪だって生きています。人間と同じように呼吸してるんだ! なのに危険だからって理由だけで殺そうとするなんて、そんなのあまりにも一方的すぎるじゃないですか!」

 珍しく怒気もあらわに気炎を吐いた夏目に、薫は決然と少年を見据えたまま返答する。

「うちは人間だ。ゆえに人の命をいちばんに重んじている。……おまえは違うのか?」

 夏目は言葉に詰まってしまった。彼の瞳には、懊悩(おうのう)の翳が蜃気楼のように揺れている。
 大切なのは『人』か『妖』か。それは夏目が結論づけられていない問題であったのだ。
 そんな夏目の葛藤を、むろん薫は斟酌しない。ただ断罪者めいた声音で言葉を繋げる。

「それにさっき、うちは言ったはずだ。もう問答の時間は終わりだとな」

 言いながら左手に提げた日本刀の柄に手をかける薫。澄んだ鞘鳴りとともに引き抜かれたのは、過酷な風月と熾烈な使いこみを偲ばせる古めかしい銀色の刃。悠久の時間を閉じこめて研磨された刀身には『真道破魔 神咲一灯 霊剣十六夜』と銘が打たれていた。
 次の瞬間、刃から無限の斬撃めいた圧迫感がほとばしる。ニャンコ先生が身震いした。

「呪法で鍛えた霊剣か。神仏の祝福を受けたものではないようだが……なるほど強い霊力を持った者の魂を内包しているらしい。星霜もかなり閲しているな。いったい何年だ」
「四〇〇年。そして退治した魑魅魍魎の数は万単位。現存する破魔の剣の中で最強のひと振りだ。――おまえにも霊力が備わっているのなら、理屈ではなく感覚でわかるだろう」

 右手の霊剣の切っ先をゆるく持ちあげた薫は、刃そのものの眼光で夏目を射すくめる。
 夏目は怖くて死にそうだった。しかし男の意地と存外に頑固な気性が敗北を認めない。
 夏目は白い喉を動かして生唾を飲みこみ、なけなしの勇気を振り絞りつつ声を発する。

「言ってる意味は半分もわからない。でもその刀が馬鹿げた代物だっていうのは理解しました。あとそんなものを得意げに提げているあなたの危険性も。……久遠は渡せません」
「この『十六夜』は霊的な存在を祓うための利刀だが、邪魔者も斬れないことはない」

 夏目の悲壮な決断に、薫は恫喝めいた言葉をかえす。彼女の周囲に殺気が溢れていく。

「最後にもう一度だけ言おう――そこをどけ!」

 直後、薫の総身から烈風のごとく吹きつける怒号と威迫。本気の圧力が夏目を脅かす。
 夏目は逃げたかった。身も世もなく泣きたかった。ひざまずいて許しを請いたかった。
 にもかかわらず夏目は果敢に立ち向かう姿勢。強者の理不尽に負けたくなかったのだ。
 怯えながらも性根を据えた夏目に、薫は「それが答えか」と困った様子で吐息をつく。
 が、それもすぐに憫笑へと変わる。意図的に感情を排した者が浮かべる冷徹な様相に。

「ならば容赦はしない。恨むなら愚直を勇気と履き違えた自分を恨むんだな」

 厳しく言い放った薫が、十六夜を正眼に構えなおす。さらに膨れあがる殺気と威圧感。
 その冷然とした気迫に呑まれて、夏目は我知らず後退してしまう。――と、靴の踵に柔らかいものが当たる。足元に視線を滑らせた夏目は、苦々しい慙愧に奥歯を噛みしめた。
 そこには久遠がいたのである。神咲薫の凄愴な気配に体を丸めて怯える小さな存在が。
 不安な表情を見せている場合ではない。夏目は恐怖で縮こまる自分の心に檄を飛ばす。
 それから夏目は、気絶したヴィヴィオを腕の中に抱いたまま、久遠に優しく微笑んだ。

「大丈夫だよ、久遠。怖がらなくてもいい。おれに昔のことはわからないけど、でも久遠が優しいってことは知っている。だからおまえが祓われる必要なんてどこにもないんだ」

 すると久遠はガラス細工めいた瞳をおずおずと上向かせた。夏目は笑顔で言い添える。

「仮に久遠が、神咲さんの言うとおりの妖でも……おれは友達だよ。ずっとずっと友達だ」

 穏やかな口調に慈しみをこめてなだめる。そのとき久遠の瞳から一筋の涙がこぼれた。
 一方、薫は呵責なく霊剣を水平に振り抜いている。閃いた白刃の行方は夏目の首筋だ。
 それに反応できたのはニャンコ先生だけだった。夏目を助けるために短い足で駆ける。

「――夏目、避けろ!」

 ニャンコ先生が叫んだ。それで夏目は凶刃に気づいたが、すでに身をかわす余裕はない。
 突然、白い閃光が空を砕いた。すべてが生気なく眩いばかりに浮かびあがり、静穏な境内は奥行きも色も影もない場所と化す。夏目を吹き飛ばした轟音と衝撃は鉄槌のようだ。
 おもいきり参道に叩きつけられて転げまわり、横たわる形で倒れた夏目は体のあちこちに痣をこしらえていた。それでも腕に抱きかかえたヴィヴィオを放さなかったのは立派である。しかし火を浴びせられたような激痛のせいで四肢を満足に動かすことができない。

「……くっ、いまのはなんだ? 落雷か? こんな天気の良い日にどうして……」

 夏目は痛みに呻きながらも上体を起こしにかかる。みんなの安否を気にかけながら。
 ふたたび轟いた雷鳴が、夏目の視野を真っ白に塗りつぶしたのは、次の瞬間だった。


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HN:
イヒダリ彰人
性別:
男性
趣味:
立ち読み、小説を書くこと
自己紹介:

イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。

《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん

《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
『燃え』と『萌え』をこよなく愛してます。

《ブログについて》
魔法少女リリカルなのはの二次創作小説を中心に掲載するサイト。
イヒダリ彰人の妄想をただひたすらに書きつらねていきます。
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