イヒダリの魔導書
なのは対ジェネシス
もうひとつのタイトルは、田村ゆかり対Gacktです。(笑)
ちなみにファイナルファンタジー7 クライシスコアとのクロスオーバーです。
SSを読んでいる最中に、クライシスコアの劇中に流れる曲が頭に浮かべば、
それはもう“してやったり”の心境であります。
あと九割方が戦闘描写ですが、それでも楽しんでいただけると幸いです。
黄昏時は逢魔時――
「深遠の謎 それは女神の贈り物
我らが下より 飛び立った
彷徨い続ける 心の水面
微かな
しかし、高町なのはが帰路で邂逅したのは、一冊の叙事詩を朗読する若い長身の男。
「LOVELESS――第一章。ジェネシスくんが毎日読んでるから、わたしも覚えちゃったよ」
なのはの口元にあるかなきかの苦笑がのぼる。やれやれと言いたそうな表情だった。
「その詩集を読むみたいに、わたしの教導もサボらずに受けてくれると嬉しいんだけど」
「べつに俺は、あんたの教導を受けたいから訓練に参加してるわけじゃない」
ジェネシスは右手に持っていた詩集を赤いコートの内ポケットにしまうと、なのはの目前へと歩み寄る。その堂々たる足取りは傲岸にして不遜。足音さえも尊大に聞こえた。
「時空管理局のエースオブエースと名高いあんたと勝負がしたかったからだ」
いつのまにかジェネシスの右手には、詩集の代わりに物騒なアイテムが握られていた。
精緻な針金細工を思わせる等脚台形の鍔に、人魚の下半身に羽が生えた
「どうして勝負なんてしたいのか、理由を訊いたら教えてくれるかな?」
なのはの声音は穏やかだったが、その笑顔には若干の硬さがうかがえた。
一方、ジェネシスは右手のレイピアを顔の位置で水平に構えながら――
「俺も英雄になるんだ」
澄まし顔でうそぶく。同時に、持ちあげたレイピアの刀身に左手を添えている。それから鍔元から切っ先にかけて、まるで誇示するかのようにゆっくりとなぞっていく。その指先を追いかける魔法文字と紅蓮の炎が、レイピアの刀身を輝かせたのは次の瞬間だった。
その途端、なのはの表情が苦々しげにこわばる。ジェネシスの本気を理解したらしい。
「……わかった。レイジングハート」
なのはがデバイスをセットアップする。バリアジャケットはアグレッサーモードだ。
「でも、ひとつだけ条件がある。わたしが勝ったら、ちゃんと教導を受けてほしい」
「俺に勝つことが前提か。いいだろう。だがその余裕――いつまで持つかな!」
裂帛の気合とともに、ジェネシスは猛然と突進する。なのはをめがけて一直線に。
ジェネシスの初撃は右上からの袈裟斬り。そのまま返す刃で二撃、三撃と繋いでいく。
なのははラウンドシールドを展開。ジェネシスの三連撃を防いだあと、守りの姿勢で後退する。すぐさま追いすがるジェネシスに、六発のアクセルシューターを発射しながら。
高速で飛来する魔弾をことごとく斬り払い、ジェネシスは猫科の獣のように大きく跳躍。目を
なのはのラウンドシールドは縦に斬り裂かれ、受け止めたレイジングハートの長柄が嫌な音をたてて軋んだ。苦い表情をする目前の教導官に、ジェネシスは凄絶な冷笑を送る。
途端、なのはの眼光が鋭くなった。アクセルシューターを二発撃ってジェネシスを追い払うや、間髪を入れずに用いた飛行魔法で中空に躍りあがる。空戦魔導師の本領発揮だ。
間合いを広げられたジェネシスだったが、その顔には焦燥など微塵もうかがえない。
彼は近くにそびえていた街灯を三歩で登頂し、その先端を足場にして高く跳躍した。
人外の身軽さを発揮したジェネシスは、なのはの制空権をいともたやすく侵略する。
それは空を自由自在に飛びまわる鳥に、地を這う獣が追いついた驚愕の瞬間だった。
「……防御したときの感触でわかった。ジェネシスくんの魔法、ファイアリングロックが解除されてるよね。いったいどうして? 殺し合いがしたいの?」
なのはが険しい表情で訊いてくる。応じたジェネシスの声は熱狂の色を孕んでいた。
「英雄になりたいだけだッ」
斬撃、斬撃、斬撃、斬撃、斬撃……。
連続する赤い剣閃がラウンドシールドを紙も同然に斬り刻み、ひときわ凄烈な一撃が、なのはの体をさらに高空へと撥ね飛ばす。悲鳴をあげた教導官の姿が遠退いていく。
ジェネシスの左手に魔力が集束する。さして間を置かずに放たれた無数の射撃魔法は、フェイトのプラズマランサーを彷彿とさせる緋色の
体勢を崩されて無防備な姿をさらす高町なのはに、目算で三十発を超えるジェネシスの
轟音が大気を揺るがし、花開いた大輪のフレアが、なのはの姿を覆い隠した。
魔導師の格など関係ない、生物ならまちがいなく焼死だろう、必殺必至の大技。虚空にもうひとつの太陽を現出させたおのれの成果を、だがジェネシスは冷ややかに見ていた。
――エースオブエースの実力が、まさかこの程度だったとは。
もちろん達成感はない。胸にわだかまるのは、期待を裏切られたときに似た失望のみ。
ゆっくりと地上に降下していきながら、ジェネシスは物足りない風情で溜息をついた。
――と、総身に粟立つ感触。いくつもの死線を潜り抜けてきた者のみが有する危機感。
目を見開いたジェネシスの脇を魔力の奔流が掠めたのは、その直後のことであった。
なのはを包みこんでいたはずの爆煙は、最前の砲撃魔法で消し飛んでしまったらしい。慌てて夕焼け空を見上げたジェネシスの視界には、バリアジャケットをエクシードモードに換装したエースオブエースの威容があった。しかも、信じられないことに無傷である。
瞠目するジェネシスに、なのははショートバスターの二連発で追い討ちをかけた。
完全に意表を衝かれたジェネシスだったが、落下してくる二本の光の柱を斬り払う手並みは、もはや見事としか言いようがない。その剣技はシグナムにも匹敵するだろう。
ほどなく地面に着地したジェネシスを、さらに四発のショートバスターが追撃する。
ジェネシスは後方宙返りで二十歩の距離を跳び、なのはの砲撃魔法を紙一重でかわす。
後転から着地したジェネシスは、追撃を警戒して目線を仰向けた。そして瞳が細まる。
槍型に変化したレイジングハートの長柄を握りしめて、なのはが突撃の構えをとっていた。穂の部分には魔力で構成された羽根が、切っ先の部分には魔力刃が展開している。
高町なのはの武勇伝は聞き知っていた。同じ理由で、彼女が行使する魔法も知っている。
戦慄の予感に、しかしジェネシスは武者震いする。こういう緊張を期待していたのだ。
やがて、エースオブエースが口を開く。薄い唇から発せられた声は毅然としていた。
「――A.C.Sドライバー!」
『
その凄まじい突進は、水面を泳ぐ獲物に狙いを定めた猛禽の急降下さながら。
ジェネシスはレイピアの赤い刀身で受け止めるが、重力をも味方につけて加速した打突の威力を相殺できなかった。風にあおられる木の葉のように弾き飛ばされてしまう。
派手に地面を転がる体を制御しつつ身を起こすジェネシス。が、舌打ちする
ジェネシスは右手のレイピアを掲げあげ、頭の位置にあるその刀身を左手でなぞる。
次第、鍔元から切っ先までを
そしてジェネシスは、超高速で突進してくる高町なのはを、大上段の斬撃で迎え撃つ。
目が眩む閃光に次ぎ、耳を聾する轟音が響く。衝撃は固形化した暴風のようだった。
火花を散らして鎬を削る二機のデバイスを挟んで、ジェネシスとなのはが睨み合う形で対峙している。その両者が、やおら距離をあけて互いの間合いから離脱した。
――否、高町なのはの間合いは、むしろ中遠距離こそが真骨頂だ。
「エクセリオン――」
射撃を意図して構えられたレイジングハートに、カートリッジが一発ロードされた。
ジェネシスはレイピアに魔力を注ぎこみ、その刀身をさらに赤く赤く赤く輝かせる。
もはや小細工は必要ない。雌雄を決するのは、ジェネシスの刃がなのはを両断するのが先か、なのはの砲撃がジェネシスを貫くのが先か、そのどちらかしかありえないのだ。
日没が迫る薄闇に、紅の閃光が躍る。
死闘の決着を渾身の薙ぎ払いに託し、神速の足運びで疾駆するジェネシス。
疾風を背後に従える速さで迫る赤い影に、なのはのレイジングハートが砲口を据える。
猛然と横薙ぎに振るわれた赤熱の刃が、なのはの体を上下に両断せんとした――刹那。
「――ギガントハンマーァァァァッ!」
豪快な形状をした鉄槌が、一触即発の彼我のあいだに叩きこまれたのはそのときだった。
弾かれたように距離をあけた両者は、当惑に目を白黒させながら闖入者を見やる。
「……ヴィータちゃん、いきなり攻撃してくるなんて、ちょっとひどいと思うんだけど」
なのはが憮然と呟く。直前に気づいて逃げたからよかったものの、一瞬でも遅れていれば潰されていたのだ。なのはの不満も当然である。文句のひとつも言いたくなるだろう。
だが、ヴィータの怒りはそれ以上だった。燃える瞳でエースオブエースを睨みつける。
「おまえこそなにしてんだよ。もう訓練は終わってるはずだろ?」
「う、うん。そうなんだけどね……あ、居残り授業ってやつだったかもしれない」
「ふざけんな! 途中からだけど、ちゃんと観てたんだぞ。マジ喧嘩だったじゃねぇか」
ヴィータに激しく詰め寄られて、なのはが「にゃはは……」と情けない顔で笑う。
苦笑するエースオブエースに、鉄槌の騎士は溜息を返す。どうやら呆れたらしい。
「まあ、事の顛末はあとでじっくり聞かせてもらうとして――おい、どこに行く気だ!」
言いかけた説教を、やおら怒声に変えるヴィータ。その視線は反対側を向いている。
ヴィータの叱咤は、何事もなかったように踵を返すジェネシスの背中を叩いていた。
「おい、てめぇ。なにひとりで帰ろうとしてやがる! 責任逃れをするつもりか?」
「……約束のない明日であろうと、君の立つ場所に、必ず舞い戻ろう」
「はぁ? なに言ってやがんだ? おまえ」
あんぐりと口を開けるヴィータに一瞥もくれることなく、ジェネシスは歩き続ける。
崇高なる決闘の儀式に水をさされた時点で、彼の昂揚は氷のごとく冷め切っていた。
もうこの場には、なんの未練もない。いま興味があるのは、そう遠くない未来に訪れるだろう、二度目の邂逅のみ。奇しくも持ち越しになった、高町なのはとの決着だけだ。
ほどなくして訪れた夕闇に呑みこまれ、ジェネシスの後ろ姿と足音が完全に消えた。
「……なんだったんだ、アイツ?」
なんとなくジェネシスを見送ってしまったヴィータが、唖然とした声音で呟いた。
一方、なのはの表情は楽しげだった。まるで新しいおもちゃを見つけた子供のように。
「かつてない問題児だけどね。でも強いよ。訓練次第では、もっともっと強くなれる」
「……なのはってさ、ほんとタフだよな。おまえに目をつけられたあいつに同情するよ」
嬉しそうに語る旧友の横顔に、ヴィータは賛辞とも揶揄ともつかない言葉を返した。
――なのはとジェネシス。
両者の諍いがどういう結末を迎えるのか、今はまだ誰にもわからないことであった。
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プロフィール
イヒダリ彰人(あきひと)。
北海道に棲息する素人もの書き。
逃げ足はメタルスライムよりも速い。
でも執筆速度はカメのように遅い。
筆力が上がる魔法があればいいと常々思ってる。
目標は『見える、聞こえる、触れられる』小説を描くこと。
《尊敬する作家》
吉田直さん、久美沙織さん、冲方丁さん、渡瀬草一郎さん
《なのは属性》
知らないうちに『アリすず』に染まっていました。
でも最近は『八神家の人たち』も気になっています。
なにげにザフィーラの書きやすさは異常。
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《ブログについて》
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